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「ケンタロウ!」
この声に起こされる
「ケンタロ~!!」
わたしはケンタロウではないが
ケンタロウよりも早く目が覚める
「ケンタロ~~!!!」
だんだん声が高くなる
昼間は決して聞こえてくることのない声だ
だんだん大きくなる目覚まし時計のように・・
しまいには鬼のようになる
「ケンタロ~~~!!!☆★※◎!」
ここに越してきた頃には
まあるいお顔の あどけない目をした
かわいい子どもだったけれど
いまや大学入試を控えた
たぶん選挙権もある高校生
たまに入り口で出会うと
エレベーターを開けて待っていてくれたりもするが
口は開きたくもないというお年頃の
でも可愛い となりの息子
お母さんの声は
普段聞こえてくるようなことは
かつて 一度もない
けれど
朝だけは「ケンタロ~」を連呼して
部活のためなのか 遠い学校なのかわからないが
息子を起こす
その声が高くなればなるほど
わたしは胸が熱くなる
・・時計のない部屋で
雨戸の節目から入ってくる朝陽で目を覚まし
家中の掃除と 親たちの朝ご飯づくりをして
自分はご飯に水道の水をかけて口に流し込み
線路道を走って通った
わたしの中学生時代がよみがえってくる・・
親に起こされるしあわせ・・
親が鬼のようになる「愛」に気づくのは
ケンタロウが親になってからかもしれない
いや ケンタロウの奥さんが
ケンタロウの子どもを起こすようになってからかもしれない
わたしも朝だけは「ケンタロウ」になって
母の愛に起こされている
合掌